2012/09/08

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 11巻 感想

俺妹11巻読んだのでその感想。

正確に言うと、「あとがき」まで読んで、一旦中断しています。この先を読む前に一旦書いておかなければならない気がしたので。

買って表紙を眺めた段階で、過去話になることはわかりきっているわけで、すっげえ嫌な予感を抱きながら読み始めました。なんで嫌な予感かと言うと、桐乃と京介が疎遠になった過去が明かされるっていうことは、桐乃のこれまでの思いとか、桐乃が今どう思って京介に接しているのとか、そういうものに対する言ってみれば作者による正解が提示されるということだからです。

もう少し補足しましょう。俺は、俺妹の9巻がすげえ嫌いです。具体的に言うと、「読まなかったことにしたい」という意思を示すために、9巻だけ本棚に前後逆に刺さっている。9巻ってのはその他の巻と違って、各登場人物の視点で語られる短篇集という形式をとっています。俺妹は京介の一人称で語られてきた物語なので、各登場人物の内面というのは基本的に、いや原理的に読者である俺が妄想するしか無い物語だったんですが、9巻でそれが破られた。各登場人物が何を思っているかが明示されてしまった。

これを単純に喜ぶことができる場合もあります。例えばエロゲのアナザービューみたいなものは好きです。来た!女の子の心情描写だ!って喜び勇んで舐め回す場合もある。ただ、俺妹に関してはそうできなかった。これも正確じゃないですね。「桐乃に関しては」そうできなかった。9巻、桐乃視点で語られる物語を読んだときの俺の反応はこうです。

「こんなの桐乃じゃねえ」

素で拒絶反応を起こしたんですよ。これは要するに、1~8巻、京介の視点で語られる桐乃を読んで俺が脳内で作り上げた、俺が好きな「高坂桐乃」と、9巻で提示された高坂桐乃の間に差がありすぎたっていうことです。こうなってしまった理由をいくつか挙げることはできます。例えば妄想するしかなかった時間が長かったからとか、京介視点というものが信頼できないものとして描かれてきたこととか。まあ理由はどうでもいいでしょう。重要なのは、俺が好きだったのは、俺が脳内で作り上げた「桐乃」だということです。

俺は俺の好きな「桐乃」をずっと信じていたいがために、桐乃を見ようとしなかった。桐乃が「桐乃」と異なっていることを知って幻滅したくないから、桐乃を見たくなかった。

だから過去話が展開されると予想された段階で嫌な予感がし始めたわけです。見たくねえもんを見せられる気がして。実際に読んでても、この先に開示される正解の予感がつきまとっていて、読み終わった部分から妄想する「正解」に自分勝手にダメージを受けるという状態で、けっこう立ち止まる頻度が多かったですね。ひっでえ話だ。

でまあ俺の話は置いといて11巻の話に戻ります。京介は小学生のころ、早熟だったというただそれだけの理由で勉強もスポーツも――子供のまなざしによれば「何でも」――できる子供だった。桐乃はそれを見てお兄ちゃんに「憧れた」(ロックが「俺らの」憧れといったとおり)。だけどまあ早熟だという理由だけで特別な人間でいられる時間は長くは続かない。中学生になるころには京介はもう自分は特別ではないと感じてしまっている。

ただ、3つ年下の妹である桐乃にはまだそんなことはわからない。私のお兄ちゃんは特別だと思ったままで。京介は桐乃の「お兄ちゃん」であるために、無自覚に、あるべき「お兄ちゃん」であり続けるために行動し続けてしまう。特別ではない自分が、特別であるために。

その歪みが顕れたのが3年前の事故で、事故によってヒビが入った京介に真奈美が掛けた言葉(俺はあれは真奈美の打算によるものだと認識しています)、「ありのままのあなたが好きだよ」というメッセージで京介は自分が特別ではないと認めてしまった。

まあ京介にとっては良かったのかもしれない。真奈美の言葉が、京介を自分に寄せるための打算から出たものであったとしても、俺はその真奈美の欲望を肯定します。むしろ好ましいくらいです。桐乃がいなければ一発で真奈美に転んでいたんじゃないでしょうか。

でも、3年前の桐乃からすれば、これは自分の好きだったお兄ちゃんが失われたことを意味するわけです。桐乃にはそれを認めることができない。いや、認めたくない。特別ではなくなってしまった兄貴を見て、桐乃はこう思うわけです。

「あたしのお兄ちゃんがこんなにカッコ悪いわけがない」って。

そして桐乃のなかにはカッコつきの「お兄ちゃん」が居座り始める。「お兄ちゃん」を壊したくないから、「お兄ちゃん」と、ありのままの兄貴とが異なっていることを知って幻滅したくないから、京介を見ないようにした。知りたくないから距離を置いた。今の平凡な兄貴に触れても悔しいような苛立ちがあるだけだから。

これ、殆ど俺の桐乃に対する態度と一緒なんですよね。ただ、俺妹という物語においては、そんな桐乃が京介に改めて介入されて、強引にでも本当の京介を知っていった。そんで、ありのままの兄貴は、桐乃の中に居座っていた「お兄ちゃん」とは違って凄いヤツでもなんでもないけど、「あたしにとっては」特別なお兄ちゃんだって気付いた。だから桐乃は「お兄ちゃん」を捨てることを決めた。そんなものは必要なかったんだって気付いた。

「あたしのお兄ちゃんは、ありのままでも、あたしにとって、こんなにカッコいいんだから」

参りました。11巻でときどき挿入された今の桐乃の言葉で少しずつ準備をさせてもらったってのも良かったと思うんだけど、ここまでのもんを提示させられたら諦めざるを得ない。俺も俺の中の「桐乃」を捨てることにします。

では改めて。俺は、桐乃が好きです。カッコが外れただけだけど、俺の中ではけっこう大きな違いなのです。